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2017-05-11

『イスル・ソヤ—スリランカの海外出稼ぎ事情』内藤 俊雄 著

イスル・ソヤとは、シンハラ語で「しあわせをさがして」「豊かさを求めて」という意味だそうです。
本書エピローグによれば、1990年にスリランカで出稼ぎをテーマにした「イスル・ソヤ」という連続テレビドラマが放映され、書名はそこからとったようです。

著者がスリランカで暮らしたのは1985年から2年間、勤務先はスリランカ労働省・海外雇用公社。
メールもブログもない時代に、折にふれて日本の友人宛に書き送った現地レポートを元にまとめた本です。
誠実で穏やかなまなざし、うわずらない語り口が心地よく、何度読んでも引き込まれてしまいます。

私が暮らしたのはその15年後で、しかも帰国してからこの本に出会ったのですが、共感という言葉では足りない・・・、何というか、自分が見てきたこと、考えてきたことを肯定してもらった感じで、深く安堵したのを覚えています。

スリランカは多民族社会だということがよく言われるけれども、それだけではなくて、経済力、教育レベル、英語力、暮らす場所(都市か農村か)などによって、置かれている立場や感じていることがかなり違うと感じます。「出稼ぎ」という切り口でスリランカ社会をみると、その辺りのことがすごくよく見えてくる。

駐在中に仕事でうまくいかなかったこと、人間関係のことなどは、ある種のカルチャー・ショックでもあり、帰国後もずっと反芻し考え続けてきましたが、突き詰めると、そういった社会の成り立ちにまで関わることだったんだな、と今は思うようになりました。

私が帰国して14年、内戦が終わって8年。
スリランカは変化し続けていますが、今のスリランカを理解するうえでも、この本の内容は決して古すぎるということはない気がします。
物価がずいぶん違うのと、登場するホテルの名前がランカ・オベロイからシナモン・グランドに変わったぐらいで(笑)

スリランカの人たちと友達づきあいをしたり、仕事をしたりしていく上で参考になる本を挙げるとしたら、迷わずベスト3に入れる、思い入れのある一冊です。


イスル・ソヤ―スリランカの海外出稼ぎ事情
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アジ研ワールド・トレンド2016年1月号(No.243)掲載の記事を紹介しました。

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